建築プロジェクトマネジメントで大事な3つのこと
2025/03/31

建築事業の実現に向けたプロセスでは、主にマネジメントとして、建築事業、プロジェクト、コンストラクションの3つのマネジメントを行っています。
その中でも、プロジェクトマネジメントは、実は建築業界ではニーズとして分かりにくい仕事でした。しかし近年は、建築の専門技術的なことよりも、プロジェクト自体を何とかしてほしいというニーズが高くなっています。端的に言うと「どう進めていいのか分からない」という難しいプロジェクトが増えてきたということです。
建築もウォーターフォールだけでは通用しない
これまでも、規模の大きい建築事業は関係者(ステークホルダー)が多く、また管理する情報や項目も多いので専属のプロジェクトマネジャーがいることがありましたが、近年では規模が小さいものでもそういう役割が必要になっています。理由はよく言われるVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)に加えて、建築業界の人手不足や価格高騰が影響しています。
プロジェクトを大きく「上流工程=何をつくるか?」と「下流工程=どうつくるか?」に分けると、以前の建築プロジェクトは下流工程の比重が大きく、そしてこの下流工程はウォーターフォール(計画駆動型)の教科書のようにしっかりと体系化されていましたが、これが成り立つのは早期に「何をつくるか?」が決まることが条件となります。近年ではこれが決まらなくなりました。社会もお金もスケジュールも変わってしまうからです。
そうすると建築のプロジェクトマネジャーも求められることが変わります。以前のように大量の情報や関係者を管理して調整するだけでなく、構想や推進を求められるようになってきました。そんな建築のプロジェクトマネジャーには、次の3つが大事です。
・シナリオをつくれること
・ルールをつくれること
・可視化できること
シナリオをつくる
プロジェクトは必ず問題が起こります。苦しい場面を乗り越えるには推進力、エンジンが必要です。強いエンジンがあるほど問題解決のスピードが上がり、大きな問題を解決できる可能性も上がりますが、エンジンの強さを決めるカギは進め方の共通理解です。
プロジェクトは開始時が最も不確定で、プロセスが進むにつれて確度が上がりますが、初期の不確定な状態で進め方の共通理解がないと不安が期待を上回ります。そうするとプロジェクトには不穏な空気が流れ、この状態で各自が同じ方向を向きパフォーマンスを発揮することは難しく、何となく進んでプロジェクトの確度が上がってもエンジンが強くなることはなく、良い成果にはなりません。これを回避するためには俯瞰して全体の流れを組み立てシナリオをつくることが重要です。
立場や組織の事情や利害関係を排除してプロジェクトファーストの視点でシナリオをつくるのが意外と難しく、偏りや思い込みのあるシナリオはプロジェクトが進むにつれて歪みとして現れてきます。建築のプロジェクトマネジメントではバイアスのかかっていないシナリオを大きな視点でつくることが大事です。
ルールをつくる
プロジェクトは非定型業務なのでライン工程のように「ルールやマニュアルで定められていることをルールで決めた役割でそれぞれがきちんとやればOK」というやり方ではありませんが、一方でルールが全く無くてもよいということではありません。
スポーツでもルールが無いと成立しないように、プロジェクトもルールがなければ各々の考えや価値観でバラバラに動くことになり、リソース(資源)が効果的に集中せず良い成果につながりません。つまり、その案件に応じた「しくみ」を既成のルールやマニュアルに代わってつくる必要があります。そのルールをつくることが建築のプロジェクトマネジメントでは大事です。
建築プロジェクトには、長期に渡り立場も役割も分野も様々な多くの人が関わります。焼き直しの画一的な固定したルールではリソースは最適化できません。そのプロジェクトの特性に合わせて、そして状況に合わせてルールを柔軟に設定し協力してもらうことがプロジェクトの成功に不可欠です。
可視化する
プロジェクトには「正解」があるわけではないので、状況に応じた「最適解」を判断し積み重ねる必要があります。その判断を正しく行うためには、様々な材料を集め可視化し、共通理解にすることが重要です。可視化の精度は判断の精度と比例します。言語化すること、文章化すること、図式化すること、表にすること。この可視化のスキルは建築に限らず現在のプロジェクトマネジャーには不可欠なスキルです。
重要なのは自分が伝えることではなく、相手に伝わること、そして管理のためではなく判断のためのプロセスの一部であるということです。プロジェクトマネジメントの管理ツールとしてリストや表をつくるのは当たり前になっていますが、当たり前すぎて目的を見失っていることは多々あります。
特に建築のプロジェクトでは技術的な専門性だけでなく、不動産や会計など、それぞれの領域の専門性が高い内容が多く出てきます。これを関係者が理解できるように翻訳して共有することが非常に重要になっています。
最適な進め方を楽しむ
以前よりスピードも難易度も上がっている建築プロジェクト。当然、リスクや求められるスキルも上がっていますが、裏を返せばより価値実現の楽しさが上がっているとも言えます。
決まったものをつくるのではなく、今までになかったものをつくる。想像していたものを実現するのではなく、想像の斜め上をいくものを実現する。シナリオ、ルール、可視化はそういうエキサイティングなプロジェクトをコントロールし、楽しむために不可欠なアクションであるともいえます。
REI SUPER MANAGERS
吉見周平